マック ミニ・コンピュータ
MAC Mini Computer
基本解説 |

Entex Corporation 1984年1月発売のApple社製『マッキントッシュ(Mac)』よりも3年以上早く登場していた、『マック』という名前の機種。ゲームが遊べるだけでなくコンピュータのプログラミングの基礎を体験することができ、『マック』のうしろには『ミニ・コンピュータ』というサブタイトルが付いている。製品の方向性としては、1978年に米国で発売されたコンピュータ風味のLEDゲーム機『チームメイト』の進化形と考えていいだろう。
『マック』の表示部はLED(発光ダイオード)とFL(蛍光表示管)のハイブリッド仕様で、縦4個×横4個のLEDが並ぶメイン画面の下側に、電卓のようにFLで8ケタのデジタル数字が表示される。ゲームを遊ぶときなどには付属のプログラムカードをメイン画面に載せるのだが、このカードの外見は初期のコンピュータの記録媒体であるパンチカード(厚紙に開けた穴の位置によってデータを記録するカード)を連想させる。しかし、実際にはプログラムが記録されているわけではなく、縦4個×横4個のうちの不要なLEDを覆い隠したり簡易説明書の役割を果たしたりするオーバーレイに過ぎない。
『MAC』の名前は「Multi-functional Advanced Computer(多機能を持つ先進的なコンピュータ)」の各単語の頭文字に対応している。「Multi-functional」は、以下の4つのモードを備えていることを指す(【 】内は米国版での名称)。
●オルガンモード【Music Mode】
下記の(A)~(C)の使いかたが用意されている。
(A) 演奏……2オクターブ分のドレミファソラシドを演奏できる。ピアノ音とオルガン音を選択可能だが、ピアノ音は音の長さが短くオルガン音は長いという違いしかなく、音色はどちらも同じ。
(B) 試聴……「ヤンキー・ドゥードゥル(アルプス一万尺)」のメロディが繰り返し流れる。
(C) 録音・再生……最大55個の音符や休符を録音して再生できる。録音のしかたは、実際に演奏する方法と、音のデータを入力する方法の2種類。音のデータは「3-9」といった形で入力し、この場合の「3」は音の長さが「200msec(200ミリ秒)」、「9」は音が「2オクターブ目のド」であることを表す。
●電子計算機モード【Calculator Mode】
最大8ケタ表示のデジタル数字を使って加減乗除の計算ができる。表示中の数値を一時的に保存するメモリー機能も搭載。
●ゲームモード【Game Mode】
5種類のゲームが収録されている。詳細はCGWM TRIVIA①を参照。
●プログラミングモード【Programming Mode】
プログラミングの基礎を体験できる。詳細はCGWM TRIVIA②を参照。
なお、『マック』は日本以外に、米国ではエンテックス社から『マック(MAC)※1』、ドイツではクヴェレ(Quelle)社から『シュピール・コンピュータ(Spiel Computer)』という名前で発売された。このうち『シュピール・コンピュータ』は『マック』をベースにしたOEM商品であるため(※2)、最初にリリースされたのは日本版か米国版、あるいは日米同時発売のいずれか。米国版の発売年月は特定できていないが、日本版は1980年10月とほぼ判明しているのに加えて、米国版の本体裏にも「(C)1980」「MADE IN JAPAN」と刻印されていることから、当ミュージアムでは日本版をメインに取り上げる形にした。日本版の販売元であるエンテックス・コーポレーション社は、米国エンテックス社の日本法人。同社が自社で『マック』を製造したのか、それとも日本の別のメーカーに開発・製造を委託していたのかは明らかになっていない。販売ルートとしては、月刊「トイズマガジン」1980年8月号に「すでにマイコンショップ150店、書店80店舗で置いてくれることが決まっている」と記されている。
※1……パッケージには日本版と違って『ミニ・コンピュータ』のサブタイトルは付いていない。本体には日本版と同様、「MAC」の横に「MINI COMPUTER」と記されている
※2……発売元のクヴェレ社は通信販売の会社で、自社開発をしていない。また、『シュピール・コンピュータ』の取扱説明書に『マック』の本体イラストが使用されていることからもOEM商品であることがわかる

『マック』を構成しているチップ(LSI)は、TMS-1600-N2LL、TMS-1170-NLHL、TMS-1024-NLLの3つ。この情報は取扱説明書にも書かれている。3つのチップは、どれも米国テキサス・インスツルメンツ社製だ。
4×4個の赤いLEDの下側に、青白いFLで数字が表示される。写真は電子計算機モードの画面で、8ケタまでの計算が可能。


キーの配置は電卓風。近くに書かれた白い文字は、オルガンモードでの各キーの役割を示す。
電源を入れたあと、MODEキーを押すたびにLEDの表示パターンが切り替わる。表示パターンは4種類あり、『マック』の4つのモードと対応している。写真は、ゲームモード選択時の表示パターン。


天井部にはスピーカーが設置されている。画面近くにある細長い溝は、プログラムカードを差し込むためのもの。
本体にプログラムカードを設置していないときの状態。右上には10個のスロットが並ぶ。

天井部の溝からプログラムカードを差し込むと、カードが画面に固定される。使っていないプログラムカードは右上のスロットにセットしておくことが可能。


プログラムカードという名前ではあるがプログラムは収録されておらず、その実体はLEDの表示部を覆うオーバーレイ。カードの右側にはゲームの起動方法と遊びかたが書かれている。
付属しているプログラムカードは、収録ゲーム用が5枚(左端の列)、プログラミングモードのサンプルゲーム用が4枚(左から2番目の列)、白紙のカードが8枚。


日本版と米国版のどちらの底面にも同じ形で「(C)1980」「MADE IN JAPAN」の刻印がある。
『チームメイト』と同様に、取扱説明書にはコンピュータ史の読み物が収録されている。写真は米国版の取扱説明書。

『マック』に最初から組み込まれているゲームは以下の5種類。(4)の「ワールドタイム」はゲームというよりも実用ツールだが、取扱説明書ではゲームとして扱われている。プログラムカード(オーバーレイ)の写真とともに、それぞれのゲームを紹介しよう。

(1) チック・タック・トー
Tic-Tac-Toe
2人用。別名、三目並べ(まるばつゲーム)。交互にLEDを点灯させていき、縦・横・斜めのいずれかで先に3つ並べた人が勝ち。先攻プレイヤーの入力はLEDが点灯を続け、後攻プレイヤーの入力はLEDが点滅する。
(2) タクティクス
Tactics
2人用。別名、三山くずし(ニムとも呼ばれる)。4×4個の点灯したLEDが3画面分用意されており、P2キーで各画面を行き来できる。いずれかの画面で1~16個のLEDを消すことを交互に繰り返し、最後の1個のLEDを消した人が負け。


(3) コンセントレーション
Concentration
2人用。別名、神経衰弱。4×4個の各マスに1~8の数字が設定されている。プレイヤーがマスを2個選ぶと両方のマスの数字が表示されるので、同じ数字がペアになるようにマスを指定していく。
(4) ワールドタイム
World Time
はじめに、自分がいる場所の地域コードと現在時刻を入力する。そのあとにどこかの地域コードを入力すると、その場所の時刻が表示される。各地の地域コード(タイムゾーンコード)は取扱説明書に書かれている。


(5) スロットマシン
Slot Machine
横4列それぞれでLEDが左から右へと高速で点滅していく。P2キーで上の列から順番にLEDを止めていき、止まったLEDが3~4個縦に並べば得点が表示される。右上か右下に2個だけ縦に並んだ場合もボーナス点を獲得可能。
『マック』では、専用のルールにもとづいたプログラムを入力することで、4×4個のLEDの点灯のさせかたや音の鳴らしかたをコントロールできる。プログラムは「1-1」「5-7」といったコードによって構成され、最大で55個のコードを入力することが可能。用意されているコードの内容は、以下のとおり。
1-1~1-8……4×4個のLEDのうち、上側の8個のひとつを指定する
2-1~2-8……4×4個のLEDのうち、下側の8個のひとつを指定する
1-9……すべてのLEDを点灯させる
2-9……すべてのLEDを消す
3-1……1-1~1-8、2-1~2-8で指定したLEDを点灯させる
4-1~4-4……それぞれ0.1秒、0.25秒、0.5秒、1.0秒の間、現在の状態のまま一時停止させる
5-1~5-7……鳴らす音(1オクターブ目のド~シ)を指定する
6-1~6-7……鳴らす音(2オクターブ目のド~シ)を指定する
7-1~7-7……鳴らす音の長さを指定する
8-1~8-7……鳴らす音の長さを指定する。これらのコードを使った場合、5-1~5-7、6-1~6-7で指定した音が半音(#)に変化する
9-1……指定した音を、指定した長さで鳴らす
9-9……プログラムの終了地点であることを示す
たとえば、四隅のLEDを2個ずつ交互に1秒間点灯させたいなら、以下のようにコードを入力すればいい。入力完了後、P1キーを押すとプログラムの実行がスタートする。なお、『マック』ではプログラムがループして実行される仕様になっており、P1キーを押すたびに停止と実行再開を繰り返すことが可能。
1-1 (左上のLEDを指定する)
1-4 (右上のLEDを指定する)
3-1 (上記で指定したLEDを点灯させる)
4-4 (1秒間、現在の状態のまま一時停止させる)
2-9 (すべてのLEDを消す)
2-5 (左下のLEDを指定する)
2-8 (右下のLEDを指定する)
3-1 (上記で指定したLEDを点灯させる)
4-4 (1秒間、現在の状態のまま一時停止させる)
2-9 (すべてのLEDを消す)
9-9 (プログラムの終了)
取扱説明書には『メトロノーム』『ベースボール』などのサンプルプログラムがいくつか載っており、そのうちの4つにはオーバーレイも用意されている(下の写真を参照)。さらに、自分でプログラムを作ったときのために、穴を自由に開けられる白紙のオーバーレイも8枚付属。『マック』では16個のLEDと単音の制御しかできないが、紙面に書かれたリストを入力したりプログラムを自作したりという、当時のマイコン少年たちと共通する体験ができるようになっているのだ。

(1) ベースボール
Baseball
LEDの光がストライク、1BH(シングルヒット)、ホームランなどのマスで順番に点灯していき、P1キーを押したときに止まる。これは、1978年にバンダイから発売された『エレクトロニクス ベースボール』と似た内容。
(2) コンピュータダイス
Dice
サイコロのシミュレーター。最初にP1キーを押すとサイコロの目が高速で切り替わっていき、ふたたびP1キーを押すと止まる。


(3) ラッキーボール
Four-In-A-Row
4つのLEDの点灯パターンが7種類用意されており、それらが高速で切り替わっていく。P1キーを押し、一直線の点灯パターンのときに止めることができれば、オーバーレイに書かれた得点を獲得。
(4) マック(MAC)占い
Fortune Teller
オーバーレイには「実現します」「様子を見ましょう」「間違っています」といった12種類の言葉が書かれている。LEDの光の移動開始後、『マック』に質問してからP1キーを押すと、占いの答えの場所で光が止まる。


プログラミングをするときは「1-1」「1-4」といったコードを順番に入力していく。真ん中のハイフン(-)は最初から表示されており、入力する必要はない。
プログラムを自作したときに使える白紙のオーバーレイ。『チームメイト』にも同様のオーバーレイが付属していた。

『マック』の日本版と米国版を比較すると、本体は同一のものを使っており、パッケージのデザインや説明書きの言語などが変更されている。おもな違いを以下にまとめてみた。

【パッケージのデザイン】
★日本版
「MAC」の大きな3文字のうしろに「MINI COMPUTER」というサブタイトルが付いている。

☆米国版①
「MAC」の文字を構成しているのはLED風のドットのデザイン。

☆米国版②
「MINI COMPUTER」のサブタイトルはないが、代わりに「MULTI-FUNCTIONAL ADVANCED COMPUTER」と書かれている。各単語の頭文字を並べると「MAC」になる。
【キーボードの説明書き】
★日本版
「ド(C)」「リッスン」などの白い文字は、オルガンモードでの各キーの役割を表す。

☆米国版
白い文字の意味は日本版と共通だが、表記はもちろん英語。


【プログラムカードの表記】
★日本版
ゲーム名もルール解説も日本語で記載。

☆米国版①
英語で書かれているのに加え、ルール解説の項目数が日本版とは異なるカードも。

☆米国版②
付属しているプログラムカードの枚数は日本版と同じ。
【『ベースボール』のプログラムカード】
☆米国版
「PITCHER」「HOME PLATE」以外のマスには、LEDの光が止まったときの打撃結果が書かれている。右上の「OUT」に注目。

★日本版
米国版で「OUT」と書かれたマスに、日本版では「ボール」と記載されている。これにより、日本版『ベースボール』は打者天国のゲームとなった。
