カラービジョン
Colorvision基本解説 | カートリッジ |
Romtec
1980年4月に1作目の『ボール』が登場して以降、新機種がハイペースで発売された任天堂の『ゲーム&ウオッチ』には、いくつかのシリーズがあった。なかでも1983年にリリースされた『テーブルトップ』シリーズは、自然光をバックライトのように利用するギミックと、アーケードゲームの筐体を意識したデザインによって、ひときわ異彩を放つシリーズだった。
『ゲーム&ウオッチ』が世界的にヒットすると、国内外の各社から『ゲーム&ウオッチ』風の携帯ゲーム機が多数発売されたが、『テーブルトップ』シリーズはその特殊な構造ゆえか、似たタイプの商品(自然光を利用する部分まで踏襲した商品)は数えるほどしか姿を現さなかった。そんななか、『テーブルトップ』シリーズのアイデアにカートリッジ交換式の要素を付加して設計されたゲーム機が、1984年にヨーロッパで発売された『カラービジョン』である。
『カラービジョン』用のカートリッジは、一方の面がカラー液晶のスクリーンで、もう一方の面が採光用の白い窓という形状をしている。本体の天井部分にセットすると、上向きの窓から採り込まれた光によって、下向きの液晶スクリーンが明るく照らし出される。その映像が本体内部のミラーに映り込み、プレイヤーはミラーに反射された映像を見てゲームを楽しむのだが、この仕組みは『ゲーム&ウオッチ』の『テーブルトップ』シリーズと同じだ。すなわち『カラービジョン』は、『テーブルトップ』シリーズの天井部分をカートリッジとして取り外せるようにしたゲーム機と考えるとわかりやすいだろう。
任天堂が発売した『ゲーム&ウオッチ』の『テーブルトップ』シリーズ全4種。『ポパイ』は海外でのみ販売された商品だ。なお、『テーブルトップ』シリーズは小型化されて『パノラマスクリーン』シリーズとして再登場した。
左は『テーブルトップ』シリーズの『マリオズ・セメントファクトリー』。採光のギミックが共通しているのに加え、『カラービジョン』のカートリッジ『モンスターチェイス』の内容が『マリオズ・セメントファクトリー』風味な点からも、『カラービジョン』が『テーブルトップ』シリーズをモデルにしたことが伝わってくる。
カートリッジを取り外すと、本体の上部は空洞になる。ミラーは天井部のカートリッジに対して45度の角度で設置されており、カートリッジ内のカラー液晶の映像をプレイヤーの正面向きに反射する役割を果たす。
カートリッジの両方の面の比較。一方の面にはカラー液晶のスクリーンが、もう一方の面には採光用の白い窓が組み込まれている。
『カラービジョン』用カートリッジのひとつ『ビースツプラネット』の画面。電池を入れた直後は、このようにすべてのグラフィックパターンが表示される。
近年のゲーム機と異なり、レバーの位置は右側。『セレクト・ア・ゲーム』(1981年)や『デジカセ』(1983年)でも方向キーやレバーは右側に設置されており、黎明期にはコントローラの配置が試行錯誤されていたことが伺える。
レバーの根元のパーツは取り外し可能。このパーツによって、レバーが左右方向にしか動かないように固定される。
パーツは2種類付属し、縦向きのパーツをセットするとレバーが上下方向にしか動かなくなる。とはいえ、縦向きの移動をするゲームは、全5種類のカートリッジの中で『ジャングルボーイ』のみ。また、パーツをなくしたときの対策なのか、すべてのゲームが縦横両方向の入力に対応している。
レバーとジャンプ(ショット)ボタン以外に用意されているのは、「TIME」と「ACL」のボタンだけ。『テーブルトップ』シリーズと同じく、『カラービジョン』には電源スイッチが存在しない。カートリッジ交換式であるにもかかわらず、単2電池2本をセットするといきなり起動する仕様だ。
パッケージの裏面。全5種類の対応ゲームの解説が、画面写真とともに掲載されている。
ひとつ前の写真の解説部分を拡大したもの。英語・フランス語・ドイツ語が並記されており、ヨーロッパ市場での販売を見据えた商品であることがわかる。
『カラービジョン』には、ロムテック(Romtec)社、バザン(Bazin)社、ブリストル(Bristol)社、アルティック(Altic)社という4つの会社のバージョンが存在する。とはいっても、異なるのは本体前面の社名の刻印と、ボタン表記の言語くらい。パッケージは複数社で共用されることを最初から想定していたのか、「Made in Hong Kong」の記載があるのみで、会社名は印刷されていない(ロムテック社版はそのままの状態で販売、バザン社版はパッケージの片隅に社名のシールを貼って販売された)。対応カートリッジの基板の多くにロムテック社の名前が刻印されていることから、残りの3社はロムテック社から商品の供給を受けて、自社ブランドの『カラービジョン』を販売していたと思われる。
4バージョンのうちの3つ。遠目に見ると違いはほとんどわからないが、手前部分にそれぞれの会社名が記載されている。
ロムテック社版。
ブリストル社版。
アルティック社版。この会社だけシールで対応している。
余談だが、同じロムテック社版でも、製造時期によって「AMA」「PRO」などの文字フォントが異なる。この写真の「AMA」のフォントは、ブリストル社版やアルティック社版と同じ。
一方、こちらの「AMA」のフォントは、ひとつ前の写真とは明らかに違う。「TIME」や「ACL」の文字とその上のボタンとの間隔も広くなっている。
基板に刻まれているロムテック社の社名。なお、同じ種類のカートリッジでも基板に社名が刻印されていないものもある(所持している12個のカートリッジのうち4個が社名の刻印なしだった)。
『カラービジョン』のカートリッジの内側には、液晶画面と配線板しか入っていない(下の写真)。カートリッジは映像の表示部分のみを担当しており、全5種類のゲームを動作させるための回路は、本体内に組み込まれているのだ。
本体にセットされているのがどのカートリッジなのか(正確にはどのタイプのゲームなのか)は、カートリッジの特定の端子同士の結ばれかたによって本体側に伝わる。このあたりの仕組みは、『クイズ・ウィズ』や『トータルコントロール4』のカートリッジと共通だ。なお、カートリッジは全5種類だが、『サブマリン』と『ビースツプラネット』はグラフィックが異なるだけでゲーム内容は同一。また、『モンスターチェイス』と『ジャングルボーイ』は、同じゲーム内容を横画面と縦画面で表現したもの。以上のような理由から、ゲームの動作パターンは実際には3種類となっている。
ボードの色が違うが、どちらも『モンスターチェイス』の基板。ボード上には電子部品はなく、液晶画面を制御するための配線しか存在しない。
『ジャングルボーイ』の基板。縦画面のゲームでは、液晶が縦向きに組み込まれている。
全5種類のカートリッジの基板を重ねながら並べてみた。向かって上から順に『モンスターチェイス』『サブマリン』『ホラーハウス』『ジャングルボーイ』『ビースツプラネット』。
ひとつ前の写真の拡大版。左から8~10番目の端子の結ばれかたがカートリッジによって異なる。ゲーム内容が同一の『サブマリン』(上から2つ目)と『ビースツプラネット』(一番下)は端子の形状も同じ。また、ゲーム内容が縦横を入れかえた形の『モンスターチェイス』(一番上)と『ジャングルボーイ』(上から4つ目)も端子の形状が同じ。