アドベンチャービジョン
Adventure Vision基本解説 | カートリッジ |
Entex
携帯ゲーム機は1機種1ゲームが一般的だった1982年に、前年の『セレクト・ア・ゲーム』に続いて米国エンテックス社が発売した、カートリッジ交換式の卓上型ゲーム機。製造台数が10,000台(50,000台の説もあり)と少ないうえ、特殊な構造をしているため壊れやすく、正常に動作する本体は2000年の時点ですでに貴重品扱いされている。
その希少性に注目が集まりがちだが、40個のLEDを使ってドットマトリクス風の映像を生成するという表示システムも特筆に値する。透明の画面の奥には、両面鏡が垂直に設置されており、電源を入れると鏡が高速で横回転を開始。その回転と同期して、縦一列に並んだ40個の赤色LEDが点滅を繰り返し、LEDの光が特定の角度の鏡に反射されることで横150×縦40ドットの映像が描き出される。ゲーム機の歴史の中で、赤色LEDと鏡の動きを同期させて画面を生成する機種はほかに任天堂の『バーチャルボーイ』(1995年)しか見当たらず、『バーチャルボーイ』の13年前にこのアイデアを実用化した『アドベンチャービジョン』は、非常に独創的なハードだったと言えるだろう。
ただし、表示システムの革新性とは裏腹に、回転する鏡がスクリーンの代わりとなっていたがゆえ、映像にちらつきが見られるのは避けられないことだった。『アドベンチャービジョン』がリリースされた1982年の米国では、ベクタースキャンによる滑らかな映像が売りの『ベクトレックス(日本名:光速船)』がGCE社から発売され、当初は好調なセールスを記録する。『アドベンチャービジョン』と『ベクトレックス』は、ともに卓上型でジョイスティックを装備し、画面は単色、対応ソフトはアーケードからの移植版が中心といったように共通点の多いゲーム機。価格は『ベクトレックス』のほうが100ドルちょっと高かったが、『アドベンチャービジョン』が商業的な成功に至らなかった理由のひとつとして、より見映えの良い映像を実現していた『ベクトレックス』の存在があったことは否定できない。
高速で点滅する40個の赤色LEDの光が回転鏡に反射されて、空間に浮かび上がるような映像を生成。ただし、光量はさほど多くないので、部屋を暗くしないと映像を視認しにくい。本体の動作中は「ブンブンブン……」という鏡の回転音が聞こえる。
ジョイスティックの両側にボタンが4つずつ用意されている。これにより、右利きでも左利きでも問題なくゲームを遊べるが、ボタンの配置が左右対称になっている点には注意が必要。
筐体の上部には4つのカートリッジ収納スロットがあり、本体同梱の『ディフェンダー』と別売りの3本のカートリッジをぴたりと収納可能。スロットの数と『アドベンチャービジョン』用ソフトの総数が一致しているのは、最初からの計画なのか、それとも結果的にそうなっただけなのかは不明。
本体の側面には、イヤホンジャックと拡張ポートが設置されている。拡張ポートは結局使われなかったが、何に利用する予定だったのか気になるところ。
ライバル機の『ベクトレックス』と並べて撮影。幅21.5×奥行32×高さ24.5センチの『アドベンチャービジョン』が小さく見える。なお、重量が約6.5キロもある『ベクトレックス』は、携帯ゲーム機と呼ぶのは厳しいので、別のROOMでの紹介を予定している。
同じエンテックス社の『セレクト・ア・ゲーム』と同様に、『アドベンチャービジョン』のパッケージにもシールで覆い隠された部分がある。うっすらと透けて見えるシールの奥の文字を読んでみると、「Built-in adapter jack accepts ENTEX No.6060 6V AC adapter, not included.(用意されているアダプタジャックでは、エンテックスのNo.6060 6V ACアダプタが使えます。ただし、ACアダプタは同梱されていません。)」。また、すぐ横の本体図から引き出されている各部の名称においても、「AC ADAPTER JACK」の文字がシールで隠されている。
これにより、何らかの事情でACアダプタ端子が削除されたようにも思えるが、実際の『アドベンチャービジョン』本体の背面には、「AC ADAPTER」と刻まれた端子が存在する。加えて、パッケージのシールの奥に書かれた「ENTEX No.6060」というACアダプタは、エンテックス社の電子ゲーム用としてすでに発売済み。端子とACアダプタはどちらも実在するのに、それらについての記述を消しているのは、どうにも不自然だ。
推測される理由は2つ。ひとつは「ENTEX No.6060」の製造が中止され、『アドベンチャービジョン』発売時にはエンテックス社内に在庫がない状況になっていたということ。もうひとつは、背面の端子に「ENTEX No.6060」を差して動作させると何らかの不具合が生じる可能性があるということ。もしも後者だとすると、それを証明するための検証実験をこのレアなゲーム機で繰り返せる勇者がいるとは思えないので、真実がわかる日は訪れないかもしれない……。
パッケージの裏側。ACアダプタ関連の2ヵ所の記述が白いシールで覆われている。
しかし、マニュアルに掲載された本体図には、しっかりと「AC ADAPTER JACK」の文字が。いかに慌ててパッケージにシールが貼られたかが伝わってくる。
このとおり、本体背面には「AC ADAPTER」の端子が用意されている。