セレクト・ア・ゲーム

Select-A-Game
基本解説
カートリッジ
  • 【発売元】
    エンテックス(米国)
    Entex
  • 【発売日】
    1981年
  • 【カートリッジ】
    6種類(1種類は本体に付属)

 米国のエンテックス社は、黎明期の電子ゲームを語るうえで外すことができないメーカーのひとつだ。同社は、LED(発光ダイオード)、FL(蛍光表示管)、LCD(液晶)の各種電子ゲームを発売していく中で、1981年に『セレクト・ア・ゲーム』、1982年に『アドベンチャービジョン』と、コンセプトの異なるカートリッジ交換式携帯ゲーム機を2年連続で世に送り出した。

 『セレクト・ア・ゲーム』は、カートリッジ交換式のゲーム機としては世界で初めてFL(蛍光表示管)を用いているのが特徴。スクリーン部分には赤と青の小さなFL管がそれぞれ7個×8列ずつ、列が互い違いになるように並んでおり、特定の位置のFL管を点灯させることでゲームを表現している。

 たとえば、本体同梱の『スペースインベーダー2』であれば、赤いFL管がインベーダーと敵弾を、水色のFL管が自機と自弾およびトーチカを表し、左右へ移動しながらだんだんと下へ侵攻してくる赤いFL管を、水色のFL管を操作して迎撃していく、というのがゲームの内容だ(下に載せた画面写真をご覧いただくとイメージしやすくなるかもしれない)。

 また、『セレクト・ア・ゲーム』がユニークなのは、『ピンボール』以外の全ソフトが対戦プレイに対応している点。操作に使う7個のボタンがスクリーンを挟むように2組用意され、対人戦を可能にしている。エンテックス社の電子ゲームは、『セレクト・ア・ゲーム』以外でも対人戦ができるものが多く、このあたりは電子ゲーム市場で先行していたマテル社の製品との差別化を図って導入した方針のようにも感じられる。

 かぎられた表示能力のなかでの工夫を感じさせる『セレクト・ア・ゲーム』だったが、いかんせん7個×16列のFL管では、商品力のあるゲームを作りづつけることは難しかった。また、対応ソフトのほとんどは発売済みの電子ゲームをベースにしていたがゆえ、各ゲーム専用にカスタマイズされたそれらの電子ゲームと比較したときに、画面のわかりやすさなどで見劣りしていたのも事実だった。結局、本体同梱の『スペースインベーダー2』を含む6本のカートリッジがリリースされたところで、ソフトのラインナップに名前が載っていた『バトルシップ』『タートルズ』は発売中止に。さらに、『セレクト・ア・ゲーム』の上位版として開発されていた、約18×28センチのディスプレイを搭載した大型のカートリッジ交換式携帯ゲーム機『テーブルトップ・ゲームマシーン』も、ショウなどに出展されたものの発売されることはなかった。

パッケージや説明書を見ると『セレクト・ア・ゲーム・マシーン』が正式名称のようにも思えるが、TM(商標)マークが付いているのは「SELECT-A-GAME」の右側。パンフレットなどでも「SELECT-A-GAME」とだけ表記されているため、ここでは『セレクト・ア・ゲーム』で名称を統一した。

四角いフレームを外し、約8×10センチのスクリーンをむき出しにした状態。上側には、サウンドのON・OFFやプレイヤーの人数などを切り替えるスイッチが並ぶ。

横3ミリ×縦2ミリ程度のサイズの赤と青のFL管がそれぞれ7個×8列ずつ、列ごとの色が互い違いになるように敷きつめられている。写真は、赤のFL管だけを全点灯させた状態。「DEMO」モードに設定して、1P側の「5」ボタンを押しながら電源を入れると、このような画面が見られる。

各ソフト付属のオーバーレイをスクリーンに載せ、上からフレームをはめ込むと、オーバーレイが固定されてそのソフト専用のゲーム機っぽい外見に。

『スペースインベーダー2』の画面。静止画像で見ても、ピンとこない人は多いはず。

それぞれのFL管が何を表しているかを文字で記載してみた。実際に動いていると、それっぽく見えるから不思議。

十字キーの役割を果たす「1」~「4」のボタンと、その他の操作に対応する「5」~「7」のボタン。これらが2組、向かい合うように設置されている。

カートリッジは、本体の下部にセットする。1センチほど突き出た状態になるが、突き出た部分にゲームのタイトルが記されている。

【CGWM TRIVIA】
パッケージやマニュアルの一部が黒いシールで覆われているのは?

 『セレクト・ア・ゲーム』の初期のパッケージやマニュアルには、黒いシールで覆われた箇所がある。該当するのはいずれもソフトのラインナップの最上部で、シールをはがすと出てくるのは『パックマン2』のタイトルやその解説文――このことは、『セレクト・ア・ゲーム』版の『パックマン2』が綱渡りのような状況下で発売された事実を示している。

 『セレクト・ア・ゲーム』の発売元のエンテックス社は、1980年にLED版の電子ゲーム『スペースインベーダー』をリリースした。この商品は、アーケード版の米国内での権利所有者であるミッドウェイ社から許諾を受けていなかったが、アーケードゲームと携帯ゲームは異なるというグレーな解釈で販売が継続され、かなりのヒットを記録する。

 その流れを受け、エンテックス社は『パックマン』についても、1981年にFL版電子ゲームを発売し、さらには『セレクト・ア・ゲーム』用ソフトもリリースしようと計画。だが、『セレクト・ア・ゲーム』本体の発売前に、コレコ社が携帯ゲーム機版『パックマン』のライセンス契約を正式にミッドウェイ社と締結してしまう。そのため、エンテックス社は『セレクト・ア・ゲーム』用『パックマン2』を発売できないという事態に陥り、すでに印刷済みの『パックマン2』関連の記述を黒いシールで覆うことになった。

 最終的には、製造途中のソフトの破棄を避けたいエンテックス社がミッドウェイ社とライセンス契約を結び、『セレクト・ア・ゲーム』用の『パックマン2』は何とか日の目を見ることができたのだ。

マニュアルに貼られた黒いシール。対応ゲームのラインナップの一番上のタイトルが隠されているのだから、何かしらのトラブルがあったことが伝わってくる。

パッケージの右下に貼られていた細長い黒シールをはがすと、姿を現したのは『パックマン2』のタイトル。

発売された『パックマン2』のパッケージとマニュアルには、ミッドウェイ社の許諾済みであることを示すシールが貼られている。

ミッドウェイ社とライセンス契約をひと足早く結んだコレコ社は、1981年にテーブルトップ型のFL版『パックマン』を発売した。正式な許諾品であることを証明するように、パッケージと本体に「by MIDWAY」と記されている。

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